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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(あ)2885号 判決 1968年11月15日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

被告人本人の上告趣意は、憲法違反を主張する点もあるが、実質はすべて単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかしながら、職権によって調査すると、原判決が、本件交差点を「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に該当するとした判断は、これを是認することができるが、右のような交差点においては、いかなる場合にも道路交通法四二条により当然に徐行すべきであるとした判断は、これをただちに是認し難いものと考える。すなわち、右のような交差点であっても、その車両の進行している道路が同法三六条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに停止することができるような速度(同法二条二〇号)にまで減速する義務があるとは解し難い(昭和四二年(あ)第二一一号同四三年七月一六日第三小法廷判決参照)。

これを本件についてみると、原判決の認定するところによれば、被告人の進行していた道路は、幅員約七メートルの歩車道の区別のない舗装道路であり、これと交差する道路は、幅員六・四ないし五・八メートルの同じく歩車道の区別のない舗装道路であったというのである。また、第一審証人三宮忠夫の尋問の際、提出され、本件記録に編綴されている被告人作成の見取図で、同証人も現場の状況と大体一致する旨供述しているもの(二通)によれば、被告人の進路と交差する左方(西側)の道路は先方で幅員が約四メートルになっている事実もうかがわれるのである。そして、これらの状況からみて、本件交差点は、被告人の進路のほうが明らかに広いと認められることになり、同法四二条の徐行義務が免除される場合にあたる可能性が全く存しないわけではない。

しかるに、この関係の事実を確定することなく、交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないものにおいては、いかなる場合にも当然に徐行義務があるとし、第一審判決を維持した原判決には、法令の解釈適用をあやまった結果審理を尽くさなかった違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって、刑訴法四一一条一号により、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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